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第31回 配偶者居住権を検討しよう
配偶者居住権は、平成30年の相続税法改正で作られた相続人である配偶者のみに認められた権利です。配偶者居住権とは、それまで居住していた建物全部に無償で住める権利をいいます。建物全体を使える権利です。注意すべき点としては、配偶者居住権が対象となる建物は、被相続人が単独所有していた建物に限られることです。配偶者以外の者と共有していた物件については対象となりません。
配偶者居住権ができた背景としては、平均寿命が長くなっていることがあります。人生100年時代といわれますが、平成元年の男子の平均寿命は81.4歳、女子の平均寿命は87.5歳です。人生100年時代には、配偶者の居住する場所の確保と生活費のための老後資金の確保が重要です。配偶者居住権は、所有権より小さいのが通常ですので、より評価額が低い配偶者居住権を選択することにより、より多くの金融資産(現金)を相続できることになり、配偶者の居住する場所の確保と生活費のための老後資金の確保の両方が達成できるというわけです。
具体例で説明しましょう。相続人が妻と子で、遺産が自宅不動産2000万円と現預金3000万円の簡単なケースを考えます。法定相続分としては、妻と子の相続割合は、1:1です。つまり、遺産が自宅不動産2000万円と現預金3000万円の合計5000万円ですので、妻と子がそれぞれ2500万円ずつ相続することになります。配偶者居住権がなければ、妻は住む場所を確保する必要がありますので、自宅不動産2000万円を相続する必要がありますので、残りの500万円しか現預金をもらえません。残された人生が長ければ長いほど、500万円の現金では生活できるのか不安に思うかもしれません。
配偶者居住権ができれば、この配偶者居住権の評価が1000万円だとしますと、妻は自宅不動産の配偶者居住権を相続すれば、残り1500万円の現預金を相続できます。老後の生活費を1000万円も余分に確保でき、配偶者の居住する場所の確保と生活費のための老後資金の確保が達成できたことになります。子の方は、自宅不動産の負担付きの所有権1000万円と現預金1500万円を相続することになります。
このように、配偶者居住権は、状況によっては、配偶者の居住する場所の確保と生活費のための老後資金の確保が達成できますので、相続の選択肢の1つとして検討する価値はあると思います。
令和2年12月17日(木)
公認会計士
小林茂夫