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第12回 遺言書の保管は法務局にお任せしよう
相続法の改正に伴って、法務局における遺言書の保管等に関する法律(以下、遺言書保管法という)ができ、これにより、2020年7月10日から遺言書保管制度が始まりました。これは、皆さんが書いた自筆証書遺言を法務局が保管してくれるというものです。従来は、皆さんが自筆証書遺言を書いたとしても、それを相続人が発見できなかった場合は皆さんの意思が相続人に届きませんでした。また、たとえ発見されたとしても改ざんされたものではないかで相続人間で争うケースも散見されました。今後は、この遺言書保管法を活用すれば、皆さんの自筆証書遺言を法務局が保管してくれるのですから安心です。これを利用しない手はありません。それでは、その内容を簡単にみていきましょう。
遺言書保管法では、以下のように規定されています。
(1)遺言者は法務局に自筆証書遺言の保管を申請することができます。この場合、法務局には、法務局の支局及び出張所、法務局の支局の出張所並びに地方法務局及びその支局並びにこれらの出張所を含むとされています。皆さんはお近くの支局や出張所をご利用になれます。
(2)遺言者は、遺言書を保管している法務局に対し、遺言書の返還又は閲覧を請求することができます。つまり、遺言書を見直したり、書き直したりしたくなった場合でも大丈夫です。
(3)遺言書の保管に関する事務は法務大臣の指定する法務局が「遺言書保管所」としてつかさどります。
(4)遺言書保管所における事務は「遺言書保管官」が取り扱います。ここで、遺言書保管官とは、遺言書保管所に勤務する法務事務官のうちから、法務局又は地方法務局の長が指定するものとされています。
皆さんがこの遺言書保管制度を利用したい場合の具体的な手続きは以下のとおりです。
(1)遺言書保管の申請
この制度を利用するためには、遺言者が自己の住所地又は本籍地を管轄する法務局に自ら出頭して遺言書保管の申請を行わなければならないとされています。つまり、代理人による申請はできないということです。これは、遺言書保管制度は、その遺言が遺言者本人によって作成されたものであることを確認する必要があるからです。
申請書に記載する事項は次のとおりです。
①遺言書に記載された作成年月日
②遺言者の氏名、出生年月日、住所及び本籍
③遺言書に次に掲げる者の記載があるときは、その氏名又は名称及び住所
1) 受贈者
2) 遺言執行者
④前3号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項
また、添付書類として次のものが必要となります。
1) 遺言者の氏名、生年月日、住所及び本籍を証明する書類
2) 申請人が遺言者本人であることを証明する本人確認書類の提示又は提出
(2)保管してもらえる遺言書
これは、自筆証書遺言書だけがその対象となります。しかも、無封の自筆証書遺言書に限られます。つまり、公正証書遺言書や秘密証書遺言書は保管してもらえません。
(3)遺言書に係る情報の管理
遺言書の情報管理は、磁気デイスク等をもって管理されます。遺言書保管ファイルには次のものが記載されます。
① 遺言書の画像情報
② 遺言書に記載された年月日
③ 遺言者の氏名、出生年月日、住所及び本籍
④ 遺言書に遺贈や遺言執行者の記載があるときは、その氏名又は名称及び住所
⑤ 遺言書の保管を開始した年月日
⑥ 遺言書が保管されている遺言書保管所の名称及び保管番号等
(4)遺言書保管事実証明書の交付
遺言者の死亡後、誰でも遺言書保管官に対し、遺言書保管所に自分に関係する遺言が保管されているかどうかの確認を求めることができます。また、遺言書保管事実証明書の交付を求めることができます。遺言書保管事実証明書には、①遺言書に記載されている作成年月日、②遺言書が保管されている遺言書保管所の名称と保管番号が記載されています。
(5)遺言書情報証明書の交付請求
遺言者が死亡した後は、相続人、受贈者及び遺言執行者等(関係相続人等といいます)は、遺言保管官に対し、遺言書保管ファイルに保管されている事項を証明する遺言書情報証明書の交付を請求することができます。この、遺言書情報証明書は、いわば遺言書の写しであり、相続の手続において金融機関等の遺言書の写しが必要な機関に提出できます。何通でも交付請求できるのでできれば多めに交付してもらっておけば便利です。
また、遺言書保管官は、遺言書情報証明書を交付し又は遺言書の閲覧をさせた場合には、速やかに、当該関係遺言を保管している旨を遺言者の相続人並びに受贈者及び遺言執行者に通知するとされています。これによって、すべての関係相続人等に自筆証書遺言書の存在が明らかになり、遺言書閲覧請求をして遺言書の内容を確認することができることになります。
(6)家庭裁判所の検認
遺言書保管制度を利用した遺言書については、家庭裁判所による検認手続きが不要となります。従来は、公正証書遺言のみが家庭裁判所の検認が不要とされており、自筆証書遺言は家庭裁判所の検認が必要でした。そのため、自筆証書遺言は家庭裁判所の検認に要する時間が結構かかるということで、相続関係の事務手続きが迅速に行なえない等のデメリットがありました。しかしながら、遺言書保管制度を利用するとこの家庭裁判所の検認が不要になるので時間的なメリットは相当大きくなると思います。
以上、遺言書保管制度のあらましを見てきましたが、非常にメリットが大きい制度となっています。今後の遺言書は、この遺言書保管制度を使った自筆証書遺言が中心になっていくことと思います。皆さんもせっかくできたこの遺言書保管制度をうまく活用して相続に備えてください。
令和2年10月2日(金)
公認会計士
小林茂夫