- kobayashishigeo
第11回 遺言書を書くときは遺留分を確かめよう
ご自分の財産の目録が完成すれば、あとは相続人への配分です。誰にいくら渡すかを決めればよいのです。その場合、注意すべきことがひとつあります。それは遺留分です。遺留分というのは、遺言書がある場合において相続人が自分の取り分として主張することのできる相続財産に対する一定の割合をいいます。たとえば、相続人があなたの奥さん(配偶者)とお子さん2人(長男と長女)の合計3人であったとします。この場合において、あなたが全財産を長男に相続させるという遺言書を書いたとしても、奥さんと長女は長男に法律で決まっている一定額を請求できます。この法律で決まっている一定額を遺留分といいます。相続人が奥さんと子供2人のこの場合の遺留分は、奥さんが4分の1で、長女が8分の1の額になります。
もし、あなたの相続財産が4000万円だったとし、それをすべて長男に相続させると遺言書に書いて、長男がいったんこの4000万円を相続したとしても、奥さんが長男に遺留分の請求として1000万円(4000万円÷4)を、長女が長男に500万円(4000万円÷8)を請求できるのです。これが遺留分です。正確には、遺留分侵害額請求権といいます。
遺言書を書く場合に注意すべきことは、この遺留分を侵害しないように意識して財産の配分を決めることです。あなたの死後に相続人が揉めないように法律で決められている遺留分を侵害しないように配慮してあげることは親として大変重要なことだと思います。よく相続は争族と言われたりしますが、このような配慮に欠けた遺言書がその原因になることがよくありますので十分注意してください。
派生的な注意点として、改正相続法ではこの遺留分侵害額請求権は金銭債権とされています。これは非常に大きな改正で、相続の実務に大きな影響を与えると思います。たとえば、先ほどの例であなたの相続財産が4000万円だったわけですが、その内訳が、自宅の不動産が3800万円と預金200万円だったとします。長男が遺言書どおりすべての財産を相続したとしますと、遺留分の侵害額の請求として、奥さんは1000万円、長女が500万円を長男に請求することになります。つまり、長男は1500万円の現金が必要になるのです、あなたから相続した現金は200万円しかありませんので、長男は残りの1300万円の資金を調達する必要がでてきます。このようにあなたの遺言書の結果として、すべての財産を引き継いだ長男までも資金繰りに苦労するようであれば、本当に争族になってしまいますよね。
この遺留分の問題は、あなたの財産が多くなくて相続税がかからなくても関係ありません。相続税がかからないような金額でも、相続が発生する限り遺留分は生じます。世の中で争族となるケースは、むしろ相続財産が多くないケースに多いという話も聞きます。遺言書を書く場合は特にこのことに気をつけましょう。息子や娘と折り合いが悪い場合等もあるでしょうから気をつけてください。
また、注意すべき点は、兄弟姉妹には遺留分はありません。そのため、もしあなたに子供がいなくて両親もすでに他界している場合には、あなたがすべての財産を奥さんに渡したければそのように遺言書を書くべきです。これは必須です。
なぜなら、遺言書がなければ、あなたの兄弟姉妹に法定相続分として4分の1の財産が行ってしまいますが、遺言書ですべての財産を奥さんに相続させるとしておくと、兄弟姉妹の遺留分はありませんのであなたの希望通りの相続ができることになります。遺言書がないと法定相続分の割合で、あなたの財産の一部が普段付き合いのないあなたの兄弟姉妹に相続されることになります。それを避けたいのであれば、すべての財産を奥さんに相続させるという遺言書を書いておきましょう。
令和2年10月1日(木)
公認会計士
小林茂夫